メンタルヘルスについて

投稿日:2024年11月30日

 今回は、従業員のメンタルヘルスについて、企業がどのような対応策をとることができるかについて解説します。

1 メンタルケアの強化

 職場に限らず、私たちは日常で様々なストレスにさらされています。夫婦仲が悪い、配偶者の両親とうまくいっていない、遺産の分け方でもめてしまった、借金の督促が来て悩みで頭がいっぱいになっている、交通事故を起こしてしまったなど、トラブルのタネは数えきれないほどあります。

 こういった悩みから心の不調を起こし、業務が手につかなくなってしまっては、従業員本人にとってはもちろんのこと、会社にとっても貴重な人材の損失につながります。

 政府も対策を強化し、労災の認定基準の設定や、自殺対策基本法の制定、労働者の心の健康の保持増進のための指針の策定といったことを通じて、メンタルケアの強化を勧めています。法律上の制度としては、労働時間の客観的方法(タイムカードやパソコンのログなど)での把握を使用者に義務付けることや、これを前提として長時間労働者へ医師による面接指導、産業医を選任した場合の産業医の業務内容などの周知義務などが、平成31年4月に施行されています。

2 ストレスチェック制度

 メンタルケアの制度で法律上定めのあるものとして、ストレスチェック制度があります。ストレスチェック制度とは、定期的に従業員のストレス状態について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況についての気づきを促し、メンタルの不調の危険を減らし、メンタル不調の危険の高い人を早期に発見して医師の指導につなげることで、メンタル不調を未然に防止する制度です。

 平成27年12月1日から導入されている制度で、常時50人以上の従業員を使用する企業に対して実施が義務付けられています。この人数にはアルバイトやパート従業員も含まれます。

 方法としては、企業が従業員にストレスチェックの質問票を配付し、記入された質問票を医師や保健師などの資格者に見てもらって、ストレスの程度を評価してもらい、その結果を従業員に直接伝えてもらう、というかたちで実施されます。医師による面接指導が必要とされた従業員から申出があれば、労働時間の短縮などの措置を取らなければならないとされています。質問票の内容については、政府が57項目を挙げていますが、これを必ず実施しなければならないというわけでありません。

 ストレスチェックの実施費用は企業負担ですが、ストレスチェックを受けなかったことを理由に不利益な扱いをしたり、ストレスチェックの結果をもとに解雇や雇止めをしたり、本人の同意なくストレスチェックの結果を企業側に開示させたりすることは禁じられていますので、注意が必要です。

3 従業員支援プログラム(EAP)

 法律上定めがあるものではありませんが、メンタルヘルスに関する取り組みの1つに、従業員支援プログラム(Employee Assistance Program、EAP)があります。EAPとは、企業において従業員へ提供される、仕事に影響するような問題に対してケアを行う、福利厚生制度のことだと一般的にいわれています。

 もともとはアメリカで、アルコール依存症に対するケアをきっかけに生まれたようですが、現在ではそれに限られず、従業員が抱える仕事に影響する問題全般に対してケアを行うというのが一般的です。企業の中で上司や同僚に相談することで解決することもあるでしょうが、それでは解決できず専門家の支援が必要な場合もあると思います。

 EAPサービスを提供する専門家は、当初は医師やカウンセラーが多かったのですが、外的なストレス要因への対応などの必要から、現在では弁護士や社会保険労務士、キャリアコンサルタントもEAPを実施しています。こうした外部の専門家の力を借りて、従業員のケアを実施していき、従業員の福祉と職場の生産性を目指す制度がEAPです。このように、安心して働くことのできる職場づくりのため、いっそうの努力が求められるようになってきています。

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